育種・在来種

在来種の卵は本当に『濃い』のか──在来鶏と商業種の比較

Effect of Breed and Diet Type on the Freshness and Quality of the Eggs: A Comparison between Mos (Indigenous Galician Breed) and Isa Brown Hens

要旨

「地鶏の卵は濃くてうまい」──よく聞く言葉ですが、本当に中身は違うのでしょうか。スペイン・ガリシア地方の研究チームが、在来鶏モス(Mos、ガリシア地方の土着品種)と、商業用採卵鶏の代表格ISA Brownの卵を288個比較しました。結果は興味深い二面性を示しています。ハウユニット(卵白の新鮮度)と卵白の盛り上がりでは商業種のISA Brownが勝る一方、卵黄の黄色さ、茹でた卵の硬さ・もっちり感、脂肪酸プロファイルでは在来種Mosが上回る。「地鶏卵は濃い」という消費者の感覚に、数字レベルで裏付けが見えてきました。

背景

「ブランド卵」「平飼い卵」「地鶏卵」。スーパーには多くの選択肢が並びますが、鶏種そのものが卵質にどう影響するかを、商業系統と在来系統で直接比較した研究は多くありません。在来種は一般に産卵数が少なく、生産効率が悪いため商業飼育には不利とされてきました。しかし消費者は「在来鶏の卵は違う」と感じる──この認識差の正体は何なのか。

本研究は、スペインの在来鶏モスが絶滅寸前まで減った後、ガリシア州の保護プログラムで復活してきた流れを背景に、その卵質を世界標準のISA Brownと並べて計測した意欲作です。

用語:モス(Mos)とISA Brown

  • モス(Mos):スペイン・ガリシア地方の伝統品種。産卵数は年間120〜150個程度(ISA Brownの半分以下)。絶滅危惧種からの復興中
  • ISA Brown:フランス企業ISA(Institut de Sélection Animale)が開発した採卵用ハイブリッド。年間300個以上の茶色卵を産む、世界で最も普及している商業採卵鶏

実験設計

研究チームは両品種を同じ条件下で飼育し、3種類の飼料を与えました。

  • CF:市販配合飼料(commercial fodder)
  • CPT:コーン+エンドウ豆+小麦の混合(corn/pea/triticale)
  • CW:コーン+小麦(corn/wheat)

合計288個の卵(2品種 × 3飼料 × 各48個)を対象に、新鮮度・化学組成・色・食感・脂肪酸組成を測定しました。

結果1:ハウユニットでは商業種が勝つ

在来種Mos vs 商業種ISA Brownの卵質比較(288個のデータから抜粋)

ハウユニット(卵白の新鮮度)(高いほど新鮮)

濃厚卵白の高さ(mm)(高いほど新鮮)

卵黄の黄色さ b*(高いほど黄色が濃い)

茹でた卵白の硬さ(kg)(高いほど硬い)

出典:Foods(MDPI)9(3), 342(2020)Tables 2-4 の値をもとに作図。

  • ハウユニット:Mos 76.18 < ISA Brown 84.85(p < 0.001)
  • 濃厚卵白の高さ:Mos 5.89mm < ISA Brown 7.14mm(p < 0.001)

卵白の新鮮度と盛り上がりの指標では、ISA Brownが明確に上回りました。ISA Brownは商業的に最適化された卵白構造を持つ品種のため、この結果は予想通りとも言えます。

結果2:殻の色は在来種のほうが淡い

面白いのが殻の色。「地鶏卵は濃い茶色」というイメージがあるかもしれませんが、実際は逆。

  • 殻の明度L*:Mos 70.58 vs ISA Brown 59.91(Mosのほうが明るい)
  • 殻の赤みa*:Mos 10.99 vs ISA Brown 16.38(ISA Brownのほうが赤い)

つまり商業種ISA Brownのほうが殻は濃い茶色。在来種Mosは淡い茶〜クリーム色です。「地鶏=茶色い殻」は、種類によって当てはまらない場合があります。

結果3:卵黄の色と茹でた食感は在来種が勝つ

一方、卵黄と卵の「口当たり」では在来種Mosが優勢でした。

  • 卵黄の黄色さb*:Mos 54.27 > ISA Brown 49.50(p < 0.01、Mosのほうが黄色が濃い)
  • 茹でた卵白の硬さ:Mos 0.51kg > ISA Brown 0.40kg(p < 0.001、Mosのほうが硬い)
  • もっちり感(Gumminess):Mos 0.36kg > ISA Brown 0.28kg(p < 0.001)
  • 噛みごたえ(Chewiness):Mos 0.40kg·mm > ISA Brown 0.29kg·mm(p < 0.001)

卵黄はMosのほうが黄色く濃く、茹でるとMosのほうが明らかに硬く、もっちりする。「地鶏卵は濃くて食感がある」という消費者の感覚は、科学的に裏付けられることが示されました。

結果4:食感の違いを生む脂肪酸とタンパク質

なぜMosの茹で卵は硬くもっちりするのか。論文では卵白タンパク質の構造差と、卵黄の脂肪酸プロファイルの違いを主要因として挙げています。

  • Mos:不飽和脂肪酸の比率が異なり、熱による凝固パターンが変わる
  • ISA Brown:商業飼料で均一化された脂肪酸プロファイル

また、卵の重さ自体は飼料のほうが品種より影響が大きく、市販配合飼料(CF)の卵が62.11gと最大、豆類主体(CPT)や穀物中心(CW)の卵は49.59〜50.50gとやや軽くなりました。

実務への示唆

本研究から読めるポイントは3つ。

  • ハウユニット(新鮮度)の絶対値では商業種が勝つ。在来種の卵は「新鮮度では劣るが別の次元で違う」
  • 卵黄の濃さ・茹でた食感では在来種が上回る。「地鶏卵は濃い」という消費者の感覚は正しい
  • 殻の色は鶏種依存で、茶色の濃さと中身の栄養は無関係

在来種の卵を買うときは、新鮮度指標ではなく「食感・風味・カロテノイド含量」で価値を評価するのが、数字の上でも正解といえます。

出典情報

  • 原著タイトル:Effect of Breed and Diet Type on the Freshness and Quality of the Eggs: A Comparison between Mos (Indigenous Galician Breed) and Isa Brown Hens
  • 掲載誌:Foods(MDPI)9(3), 342
  • 発表日:2020年3月16日
  • DOI10.3390/foods9030342
  • 原文MDPIで全文を読む(英語)
  • ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
#在来種#地鶏卵#卵の栄養#ハウユニット#卵黄色#卵の食感