飼料・栄養

鶏の飼料を昆虫に置き換えたら、卵はどう変わったか

Effect of Different Dietary Doses of Black Soldier Fly Meal on Performance and Egg Quality in Free-Range Reared Laying Hens

要旨

養鶏の飼料に使われる大豆粕を、昆虫(アメリカミズアブ幼虫)の粉でどこまで置き換えられるかを検証したスペインの研究です。平飼い採卵鶏に8週間与えた結果、大豆粕を完全に昆虫粉へ置き換えても、産卵率・飼料摂取量・卵の重さに影響は出ませんでした。ただし卵黄の色は約半分の濃さに低下し、ω3脂肪酸は22%減。一方でビタミンEやカロテノイド(ルテインなど)は28〜61%増え、栄養成分の大きな再編が起きることが明らかになりました。

背景

養鶏の飼料コストの大半は、タンパク源である大豆粕(だいずかす)です。大豆は多くが海外から輸入されており、環境負荷(森林伐採、長距離輸送のCO₂)と価格変動の両面で、持続可能とは言えない側面があります。

そこで注目されているのが、昆虫タンパク。中でもアメリカミズアブ(Black Soldier Fly、BSF)の幼虫は、生ごみを食べて短期間で大きく育ち、良質なタンパク質と脂質を含むことから、有力な代替候補とされています。本論文は、この昆虫粉を大豆粕の代わりに使えるかを、商業レベルの平飼い養鶏で検証したものです。

用語:アメリカミズアブ幼虫の粉

アメリカミズアブ(Black Soldier Fly、BSF)は、世界各地に分布するハエの仲間です。その幼虫は、タンパク質を約40%、脂質を30%前後含む栄養価の高い素材で、欧州ではEUが2017年に養殖魚飼料として承認して以来、家禽や豚向けにも拡大してきました。日本でもスタートアップが商業生産を始めています。

本論文で使われたのは、この幼虫を乾燥・粉砕した昆虫粉(BSF meal)です。

大豆粕
タンパク含有量
約44%
生産期間
4〜6か月
主な調達先
米国・ブラジル(輸入)
環境負荷
森林伐採・長距離輸送
昆虫粉(BSF)
タンパク含有量
約40%
生産期間
約2週間
主な調達先
国内生産可能(生ごみで飼育)
環境負荷
低(食品廃棄物を資源化)

BSF(アメリカミズアブ)幼虫は、生ごみや農業残渣を短期間でタンパクに変換できる。大豆粕に近い栄養価を持ちつつ、海外依存と環境負荷を下げられる点が、代替タンパクとして注目される理由。

実験設計

スペインの商業平飼い養鶏場で、36週齢のボバンスブラウン126羽を3グループに分け、8週間飼育しました。3グループの飼料は、タンパク源の割合が次のように異なります(数値は飼料全体に対する割合)。

  • 標準の飼料:大豆粕 21%、昆虫粉 なし(従来通りの配合)
  • 半分置換:大豆粕 10.5%、昆虫粉 8%
  • 完全置換:大豆粕 なし、昆虫粉 16%

鶏は屋外放飼場(1区画60㎡)を伴う平飼い環境で飼育され、給餌と採卵は通常通り行われました。

結果1:産卵率と飼料摂取量は変わらず

最も重要な経営指標である産卵率・飼料摂取量・卵重・飼料要求率は、3グループでほぼ差がありませんでした。

  • 産卵率:標準の飼料で94.4%、完全置換で91.9%(統計的有意差なし)
  • 卵重:標準の飼料で62.5g、完全置換で61.9g
  • 飼料摂取量:ほぼ同一(1日126g前後)

つまり、大豆粕を昆虫粉に完全に置き換えても、鶏は同じ量を食べ、同じペースで卵を産み続けました。養鶏経営の基本的な収支は維持できるというのが、本研究の大きな結論の一つです。

結果2:卵黄の色が大幅に淡くなった

一方、消費者から見て最も大きな変化があったのは、卵黄の色です。

飼料中の昆虫粉(ブラックソルジャーフライ粉、BSF)の割合と、卵黄の色の濃さの変化(ロッシュ・ヨーククロマファンスコア、0〜15。数値が大きいほど濃いオレンジ色)

地中海圏の消費者は13〜14点の濃いオレンジ色を好むとされ、卵黄色が約半分に低下した点は商品化の大きな課題となります。

出典:Romero C, et al. (2024) Animals 14(22), 3340 の実測値をもとに作図。

卵黄色の濃さを測る「ロッシュ・ヨーククロマファンスコア」(0〜15の目盛)は、標準の飼料の8.19から、昆虫粉を入れたグループでは4前後へと約半分に低下。一目で分かるほどの変化です。

これは、大豆粕に含まれる黄色色素(主にキサントフィル類)が、昆虫粉には少ないことが原因と考えられます。

日本の店頭で販売されている卵の黄身は、飼料に含まれるパプリカやマリーゴールド色素で意図的に濃いオレンジに着色されているのが一般的です。昆虫粉へ切り替える場合は、色素を別途添加する工夫が必要になります。

結果3:栄養成分に大きな再編が起きた

卵黄の色以外にも、栄養成分にははっきりとした変化がありました。増える成分と減る成分が両方あるため、一概に「良い」「悪い」とは言えない性格の研究です。

大豆粕を昆虫粉に完全置換したときの、卵黄に含まれる主な栄養成分の変化(標準の飼料との比率、%)

増加した成分 減少した成分

出典:Romero C, et al. (2024) Animals 14(22), 3340 の実測値をもとに作図(値は小数第1位で四捨五入)。

増えたのはビタミンE(α-トコフェロール)+28%カロテノイド類+61%。カロテノイドにはルテインやゼアキサンチンが含まれ、目の健康への寄与が知られる成分です。

一方で減ったのはω3脂肪酸-22%レチノール(ビタミンA)-10%亜鉛-10%多価不飽和脂肪酸全体-30%

つまり、「ω3卵」として売る商品設計には不利、一方で「目に良い卵」「抗酸化の高い卵」として売るなら追い風、という両面性のある結果です。

結果4:鶏の健康は大きく損なわれない

産卵率・飼料摂取量・卵殻の厚み(357〜360μmでほぼ同一)など、鶏の健康と生産性の基本指標には悪影響が出ませんでした

ただし、ハウユニット(卵白の新鮮度指標)は標準の飼料の96.7から昆虫粉を入れたグループで84〜86へとやや低下しました。新鮮なうちは差が目立ちますが、冷蔵保存後には差が縮まる傾向も観察されています。

実務への示唆

本論文から読み取れる実務的なポイントは次の通りです。

  • 飼料コストとサステナビリティの両面で、昆虫粉は有力な大豆代替となりうる(完全置換でも鶏の生産性を維持可能)
  • ただし、消費者が卵黄の色で品質を判断する日本の市場では、色素添加など別の工夫が必要
  • 商品設計の方向性によって向き不向きが分かれる。「ω3強化卵」には不向き、「ルテイン・ビタミンE強化卵」には有利
  • ハウユニットのわずかな低下、微量栄養素(レチノール・亜鉛)の減少は、配合設計で補強する余地がある

環境面では、大豆の輸入依存と森林伐採リスクを減らす効果があり、平飼いや有機認証との親和性が高い選択肢と言えます。

出典情報

  • 原著タイトル:Effect of Different Dietary Doses of Black Soldier Fly Meal on Performance and Egg Quality in Free-Range Reared Laying Hens
  • 著者:Romero C, Cenalmor JC, Chamorro S, Redondo C.
  • 掲載誌:Animals(MDPI)14(22), 3340
  • 発表日:2024年11月20日
  • DOI10.3390/ani14223340
  • 原文MDPIで全文を読む(英語)
  • ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
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