暑さと湿度で、ニワトリの卵はどう変わるか
Effects of Heat Stress on the Laying Performance, Egg Quality, and Physiological Response of Laying Hens
要旨
夏場、スーパーに並ぶ卵の殻が冬より割れやすかったり、値段が少し上がったりすることがあります。その一因は、鶏自身が暑さに弱い動物であることです。韓国の研究チームが採卵鶏を気温21〜33℃・湿度58〜82%の5環境で28日間飼育した結果、蒸し暑い環境では飼料摂取量が15%減少、猛暑条件では飼料30%減・産卵率11%減・卵殻16%減と、鶏の体と卵の両方に明確な変化が現れました。さらに、気温が同じでも湿度が20ポイント上がるだけで影響が強まることも示され、「夏の卵」の裏側で起きていることが数字で見えてきました。
背景
鶏には汗腺がありません。人間は汗で体を冷やせますが、鶏は呼吸を速めて熱を逃がすしかありません。その結果、暑い日の鶏は犬のように口を開けて速く呼吸する(開口呼吸)ようになり、体の中では水分と塩分、血液ガスのバランスに次々と負担がかかっていきます。
鶏には汗腺がないため、人間のように汗で熱を逃がすことができない。代わりに口を大きく開けて呼吸を速め、口からの蒸発と呼気で体温を下げる。しかしこの過程で体内のCO₂が普段より多く抜け、卵殻の原料となる炭酸カルシウムの供給に影響が出る。
この負担が卵の生産にどう効いてくるのかは、長年知られていました。ただし、気温と湿度がどの組み合わせで、どこからまずくなるのかを段階的に数字で示した研究は多くありませんでした。本論文はこの空白を、温度計と湿度計を組み合わせた指標を使って埋めたものです。
用語:温湿度指数(THI)
研究では 温湿度指数(Temperature-Humidity Index、THI) という指標を用います。気温と湿度を1つの数字にまとめ、家畜にとってどれくらい過酷な環境かを表します。数値が高いほど厳しい条件です。
本記事では混乱を避けるため、THIの生の数値は使わず、「涼しい」「蒸し暑い」「猛暑」のような名前で条件を呼び分けます。
実験設計
研究チームは採卵鶏を次の5環境に分け、28日間飼育しました。
- 涼しい条件:気温21℃・湿度68%(基準)
- 中程度の条件1:気温25℃・湿度58%
- 中程度の条件2:気温29℃・湿度63%
- 蒸し暑い条件:気温29℃・湿度82%
- 猛暑条件:気温33℃・湿度66%
注目してほしいのは、気温29℃で湿度だけが異なる2条件(湿度63%と82%)が含まれる点です。気温という変数を止めて、湿度だけの影響を取り出して見ることができます。
結果1:飼料を食べなくなる
環境が厳しくなるにつれ、鶏は自分から餌を食べる量を減らします。涼しい条件の食事量を100とすると、次のように減少しました。
出典:Kim H-R, et al. (2024) Animals 14(7), 1076 の実測値をもとに作図。
- 蒸し暑い条件では、飼料摂取量が 15%減少
- 猛暑条件では、30%減少
鶏は食べ物を消化・吸収する過程でも体内で熱を作ります。暑いとさらに体温が上がってしまうので、食事量を減らして熱の産生を抑えようとするのが鶏の生理的な反応です。ただしこれは、産卵に必要な栄養や、卵殻を作るためのカルシウム供給を減らすことにもつながります。
結果2:産卵数が減る
猛暑条件では、涼しい条件と比べて 産卵率が11%低下しました。興味深いのは、差がつき始めるのが飼育開始から2週間ほど経ってから、ということ。短期の暑さではなく、暑さが続くことで産卵が削られていくタイプの影響であることがうかがえます。
結果3:卵殻が薄くなる
本研究で最も顕著に変化したのは、卵殻の厚みです。卵殻厚みは涼しい条件での0.388mmに対し、猛暑条件では0.327mmと約16%の減少。殻の強度も同じくらい低下し、卵白の新鮮度を示す指標も下がり、卵黄の色も淡くなりました。
なぜ暑いと卵殻が薄くなるのか。鶏が暑さで呼吸を速めると、肺から二酸化炭素(CO₂)が普段よりたくさん外に抜けます。すると血液中の「炭酸水素」が減り、これを原料に作られる卵殻の炭酸カルシウムが供給不足に。つまり、暑さによる過呼吸が、卵殻を薄くしている構図です。
が十分
(0.388mm)
(CO₂が抜け過ぎる)
不足
(0.327mm)
卵殻の主成分は炭酸カルシウム(CaCO₃)。血液中の「炭酸水素イオン(HCO₃⁻)」が、カルシウムと結びついて卵殻を形作る。熱ストレスで呼吸が速くなると、CO₂と一緒に炭酸水素が体外へ抜け、原料不足になって殻が薄くなる。
スーパーで夏の卵が冬より割れやすく感じられることがあるなら、背景にこうした生理的な現象があります。
結果4:見た目に出ない体の変化
生産面の数字と並行して、鶏の体の中でも変化が起きていました。
- 赤血球数と、酸素を運ぶヘモグロビン濃度が 有意に低下
- 血液中のナトリウムが減り、カリウムが増える(体内の塩分バランスの乱れ)
- 水をたくさん飲むようになり、体温は上昇
意外だったのは、呼吸数には群間で大きな差が出なかったこと。暑さで鶏が「ハアハア」しているのが目に見えても、していなくても、体の中の数値としては熱ストレスが進行している可能性があるということです。外から見て元気そうな鶏でも、血液レベルでは疲れているかもしれません。
湿度だけでも効く
冒頭で触れた「気温29℃で湿度だけが違う2条件」の比較からは、もう一つ重要な事実が得られました。気温が同じでも、湿度が20ポイント上がるだけで飼料摂取量に差が出たのです。
湿度が高いと、呼吸で熱を逃がしにくくなります。人間も同じで、気温30℃・湿度50%の日と、気温30℃・湿度85%の日では後者のほうが消耗します。鶏も似ています。気温管理だけを気にしていると見落とす要因、それが湿度です。
実務への示唆
本論文から浮かぶポイントは3つです。
- 気温25℃・湿度60%前後までの環境なら、鶏の生産性には大きな影響が出ない
- 気温29℃・湿度80%前後(蒸し暑い日)、あるいは気温33℃前後(猛暑)になると、飼料摂取・産卵数・卵殻の品質のすべてに介入が必要になる
- 鶏の様子を外から見ているだけでは、熱ストレスの進行を見逃す可能性がある
気温計だけを頼りにする従来の管理から、気温と湿度の両方を見る指標化された管理への移行を、本論文は後押しします。消費者側から見ても、夏の卵が冬と少し違って見えるのは、鶏たちが体を張って乗り切っている証拠、といえるかもしれません。
出典情報
- 原著タイトル:Effects of Heat Stress on the Laying Performance, Egg Quality, and Physiological Response of Laying Hens
- 著者:Kim H-R, Ryu C, Lee S-D, Cho J-H, Kang H.
- 掲載誌:Animals(MDPI)14(7), 1076
- 発表日:2024年4月2日
- DOI:10.3390/ani14071076
- 原文:MDPIで全文を読む(英語)
- ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)