冷蔵庫の卵、いつまで持つ? 温度と保存日数で変わる中身
Assessment of Egg Quality Across Seasons, Storage Durations, and Temperatures in Commercial Laying Hens
要旨
冷蔵庫の奥から出てきた卵、まだ食べられるのか迷った経験は誰にでもあります。日本のパックに印字された賞味期限は、生食を前提にした短めの目安。でも、温度と日数で卵の中身が具体的にどう変わるのかはあまり知られていません。南アフリカの研究チームが、冬と春に産まれた256個の卵を 0・10・20・30℃ の4温度で、0・10・20・30日の4段階にわたって保存し、内側と外側の品質を丁寧に記録しました。結果、冷蔵(0〜10℃)の卵はほぼ新鮮なまま、一方で常温(30℃)の卵は30日で重量が約12%減り、ハウユニットは98→60まで低下。温度が卵の時間の流れを決めていることが、数字ではっきり見えてきます。
背景
卵は「完全栄養食品」と呼ばれるほど、タンパク質、脂質、ビタミンをバランスよく含みます。ただし、産み落とされた瞬間から、ゆっくりと質が変わっていく生鮮食品でもあります。殻に覆われているため見た目の変化は分かりにくいものの、内部では水分の蒸発と二酸化炭素の放出が静かに進行し、やがて卵白はゆるみ、卵黄は膜が弱って広がります。
- 気室
- 小さい(2〜3mm)
- 卵白
- 濃厚・盛り上がる
- 卵黄
- 丸くハリがある
- ハウユニット
- 約98(AA)
- 気室
- 拡大(10mm超)
- 卵白
- 水っぽく平ら
- 卵黄
- 扁平に広がる
- ハウユニット
- 約60(Aの下限)
卵が「古くなる」とは、殻の内側で水分が蒸発して気室が広がり、卵白のオボムチンが分解されてゆるみ、卵黄を包む膜が弱って広がっていく一連の変化を指す。温度が高いほど、この時計は速く進む。
どの温度で、どれくらいの期間保存すると、卵はどう変わるのか。本研究はこの問いに、2つの季節・4つの温度・4つの期間を組み合わせた実験で答えました。
用語:ハウユニット(HU)
ハウユニット(Haugh Unit、HU)は、卵白の濃さ=新鮮さを表す数値です。卵の重さと、割ったときの卵白の盛り上がり(高さ)から計算します。
目安は次のとおりです。
- 80以上:AAグレード(とても新鮮)
- 60〜79:Aグレード(生食可)
- 60未満:加熱調理向き
つまり、ハウユニットが60を下回ると、生食での鮮度は期待できないというのが国際的な感覚です。
実験設計
研究チームは、冬(気温が低い季節)と春(気温が上がる季節)の2シーズンに、商業養鶏場で産まれたばかりの卵を合計256個収集しました。そして次の条件で保存します。
- 保存温度:0℃(冷蔵)、10℃(冷蔵庫の標準)、20℃(常温=涼しい室内)、30℃(暑い部屋)
- 保存期間:0日(産みたて)、10日、20日、30日
測定した項目は、卵の重さ、殻の厚み、ハウユニット、卵黄と卵白の高さ・幅・pH、卵黄の色合い。温度 × 期間 × 季節を組み合わせた2 × 4 × 4の要因計画で、それぞれの条件がどう効くかを丁寧に切り分けています。
結果1:卵は時間とともに軽くなる
産みたての卵の重さは平均67.67gでしたが、30℃で30日間保存した卵は59.39gまで減少しました。率にして約12%の重量減です。
減ったのは主に水分。卵の殻には小さな気孔が無数に空いていて、そこからゆっくり水蒸気が抜けていきます。暖かい環境ほど蒸発は加速します。一方、0℃や10℃で保存した卵の重量減はわずかで、30日経ってもほぼ新鮮時と変わりません。
冷蔵庫の卵の殻を、ときどき「スカスカに感じる」ことがあるなら、それは気のせいではありません。中身が縮んで、気室(殻の内側の空気の部屋)が広がっているのです。
結果2:卵白がゆるくなる(ハウユニットの低下)
本研究で最も劇的に変化したのは、ハウユニットでした。
出典:Ikusika OO, et al. (2025) Applied Sciences 15(19), 10344 の報告値をもとに作図。
暖かい部屋に放置した卵は、30日でちょうど「生食ぎりぎり」(ハウユニット60)まで鮮度が落ちるのに対し、冷蔵した卵は1か月経ってもほぼAAグレードを保つ。同じ30日でも、置き場所が違えば中身は別物になる、ということです。
結果3:卵黄のpHも上がっていく
卵黄の中身も静かに変わっていきます。産みたての卵黄のpHは6.68前後(やや酸性寄り)ですが、30日後には7.16まで上昇。中性〜弱アルカリ側へ移動します。
pHが上がると、卵黄膜(卵黄を包む薄い膜)が弱くなることが知られています。割ったときに卵黄が「ぺちゃっ」と広がりやすくなるのはこのためです。卵黄の色も、長期保存で少しずつくすむ傾向が見られました。
結果4:季節が違うと、生まれる卵も違う
冬と春の比較からは、卵そのものの出来が季節で変わることも示されました。
- 冬(涼しい季節)の卵は、殻がやや厚めで、ハウユニットの初期値も高め
- 春(気温が上がる季節)の卵は、殻の厚みが薄く、初期品質もやや劣る傾向
これは、鶏自身が暑さでストレスを受けると、カルシウム代謝や産卵リズムが乱れるためと考えられます。同じ鶏でも、夏と冬では違う卵を産むということが、別の研究とも整合します。「旬」があるのは、野菜や魚だけではないのです。
実務への示唆
本研究から読み取れるポイントは3つです。
- 冷蔵(0〜10℃)は、卵の時間をほぼ止める。30日経ってもほぼ新鮮。
- 常温(20〜30℃)では、卵は確実に老いていく。30℃・30日で重量12%減、ハウユニットは生食ぎりぎりの60まで落ちる。
- 季節も卵質に影響する。夏に産まれた卵は、そもそも初期品質が冬より低い。
消費者の立場から言えば、買った卵をすぐ冷蔵庫に入れる、という当たり前の習慣には、本当に意味があるということです。常温の食器棚に置いてしまうと、賞味期限より早く鮮度の境目をまたいでしまう可能性があります。
生産・流通の立場からは、輸送中と店頭での温度管理が、消費者が手にしたときの卵の品質を実質的に決めることが改めて確認されました。冷蔵チェーンの維持は、卵にとって「味の保存」そのものだといえます。
出典情報
- 原著タイトル:Assessment of Egg Quality Across Seasons, Storage Durations, and Temperatures in Commercial Laying Hens
- 著者:Ikusika OO, Dwakasa H, Luphuzi S, Akinmoladun OF, Mpendulo CT.
- 掲載誌:Applied Sciences(MDPI)15(19), 10344
- 発表日:2025年9月24日
- DOI:10.3390/app151910344
- 原文:MDPIで全文を読む(英語)
- ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)