飼育環境

平飼いの鶏は、みんな外に出ているのか

Managing Free-Range Laying Hens—Part A: Frequent and Non-Frequent Range Users Differ in Laying Performance but Not Egg Quality

要旨

「平飼い」と書かれた卵を選ぶとき、私たちは広い場所で鶏たちが自由に外を歩き回っている光景を思い浮かべる。ところがオーストラリアで約9000羽を長期追跡した研究からは、それとは違う事実が浮かび上がった。全体の20%はほとんど外に出ず、60%はよく外に出るタイプ。さらに意外なことに、産卵初期は外に出るタイプが高い産卵率を示す一方、産卵後期では外に出ないタイプの方が10ポイント以上高い産卵率を記録した。しかも、卵の品質(卵殻の強度、卵重、卵黄色など)にはタイプ間でほとんど差がない。「外に出る鶏の卵は特別」という通念は、科学的には支持されない可能性がある。

背景

動物福祉の観点から、鶏をケージではなく地面で自由に飼う平飼い(ケージフリー)が世界的に広がっている。鶏にとって自然な行動(砂浴び、羽づくろい、餌探し)が可能になる一方で、生産性や卵の品質がケージ飼いに比べて不安定だと言われてきた。

これまでの研究の多くは、「平飼い vs ケージ」という単純な比較だった。では、同じ平飼い環境の中でも、鶏によって外に出る頻度は違うのか。違うとすれば、生産性にどう影響するのか。本論文はこの未踏の問いに、大規模な追跡データで答えたものだ。

用語:RFIDによる鶏の個体追跡

研究では、鶏の足に小さな電子タグ(RFID)を装着し、鶏舎の出入口を通過するたびに自動で記録する仕組みを使った。これにより、1羽ごとの外出時間・頻度を、人が見張ることなく長期間追跡できる。近年の動物行動研究では、このRFIDによる個体追跡が標準的な手法の一つになっている。

実験設計

オーストラリアの商業平飼い養鶏場5か所で、ローマン・ブラウン(ローマン社の褐色系採卵鶏)約9000羽を対象に追跡した。

  • 飼育形態:3段のエイビアリー(平飼いの多段式)+屋外放飼場。鶏舎内の密度は9羽/㎡、屋外は1500羽/ha
  • 追跡期間:16週齢(産卵直前)から72週齢(産卵後期)までの約1年
  • グループ分け:18〜21週齢の外出時間をもとに3タイプに分類
    • 外に出ないタイプ(全体の約20%)
    • ときどき外に出るタイプ(約20%)
    • よく外に出るタイプ(約60%)
  • 測定項目:産卵率、卵重、卵殻の強さ、ハウユニット(新鮮度)、卵黄色、体重ほか

結果1:鶏は3つのタイプに分かれる

追跡データから、1日あたりの外出時間がタイプ間で大きく異なることが明らかになった。

平飼いの採卵鶏を1日あたりの放飼場滞在時間で分類した場合の内訳(18〜21週齢の計測)

出典:Sibanda TZ, et al. (2020) Animals 10(6), 991 の実測値をもとに作図。

最も外に出ないタイプは1日平均2分程度しか放飼場に出ないのに対し、よく外に出るタイプは1日平均56分を屋外で過ごしていた。実に28倍の開き。平飼い環境を用意しても、鶏の約20%は、外に出ることにほとんど関心を示さないという事実が定量的に示された。

20% 外に出ないタイプ
1日あたり約2分しか屋外に出ない。鶏舎内で落ち着いて過ごす。慎重で内向的な「気質」をもつ個体。
20% ときどき出るタイプ
1日あたり約18分、屋内外を行き来する。状況に応じて柔軟に動く中間型。
60% よく外に出るタイプ
1日あたり約56分を屋外で過ごす。好奇心が強く、探索や餌探しに積極的な外向型。

平飼いの鶏は、同じ環境を与えても「外が好き」「屋内が好き」がはっきり分かれる。外に出ないタイプは慎重でエネルギー消費が少なく、長期の産卵に向いている可能性がある。

さらに、このタイプ分けは時間が経っても大きく変わらない。鶏にも生まれ持った『性格』のような個体差があることを、データが示唆している。

結果2:産卵パフォーマンスは時期で逆転する

本研究の最も興味深い発見は、産卵率のタイプ間での逆転現象だ。

産卵初期と産卵後期での、産卵率の比較(「よく外に出るタイプ」と「外に出ないタイプ」)

産卵初期は「外に出るタイプ」が優勢ですが、産卵後期では「外に出ないタイプ」の方が高い産卵率を示しました。

出典:Sibanda TZ, et al. (2020) Animals 10(6), 991 の実測値をもとに作図。

産卵開始直後(22週齢)では、よく外に出るタイプが88%と高い産卵率を示し、外に出ないタイプは78%と明確に下回った。この時期だけ見ると「外に出る鶏の方が優秀」に見える。

ところが産卵後期(72週齢)では、よく外に出るタイプは85%とほぼ横ばいなのに対し、外に出ないタイプが96%まで上昇し、逆に上回る結果になった。

考えられる理由の一つは、よく動く鶏はエネルギー消費が多く、長期の産卵を維持しにくいこと。逆に、鶏舎内で落ち着いて過ごす鶏は、身体への負担が少なく、産卵を長く安定させられる可能性がある。

結果3:卵の品質は安定していた

平飼い環境のもとでは、どのタイプの鶏からも品質の揃った卵が得られていた。

  • 卵重:グループ間で有意な差なし
  • 卵殻の強さ:3.76〜6.47Nの範囲で安定
  • 卵黄色:全グループで産卵期を通じて同様に変化
  • ハウユニット(卵白の新鮮度):タイプを問わず良好な水準を維持

平飼い環境はすべての鶏に等しく品質の良い卵を産ませることができる、と言える結果である。

結果4:床に産まれる卵の違い

ひとつだけ明確な差が出たのは、鶏舎の床に産み落とされる卵(フロアエッグ)の量だった。

外に出ないタイプは鶏舎内で過ごす時間が長いため、鶏舎内の巣以外の場所、特に床に産卵する割合が他のタイプよりやや多い傾向が見られた。フロアエッグは拾い集める作業コストが増え、汚れやすいため商品価値が下がる。

実務への示唆

本論文からは、平飼い養鶏の運営に関する3つの知見が得られる。

  • 平飼いの鶏はそれぞれが自分の過ごし方を選ぶ。外に出る鶏と、屋内を好む鶏。どちらも鶏の個性であり、平飼い環境は両方を受け入れる
  • 産卵期間の前半重視か後半重視かで、育成時に伸ばすべきタイプが異なる。短期回転なら外に出る鶏向け、長期運用なら外に出ない鶏向けの管理が合う
  • 平飼い環境ではタイプを問わず安定した品質の卵が得られる。これは平飼い飼育の大きな強みといえる

平飼い養鶏は、単に「外に出ている」ことそのものよりも、鶏が自分の性格に応じた過ごし方を選べることに本質的な価値がある。本研究は、鶏の個性を尊重した飼育がどのような生産結果をもたらすかを、大規模データで示した貴重な報告となっている。

出典情報

  • 原著タイトル:Managing Free-Range Laying Hens—Part A: Frequent and Non-Frequent Range Users Differ in Laying Performance but Not Egg Quality
  • 著者:Sibanda TZ, Kolakshyapati M, Welch M, Schneider D, Boshoff J, Ruhnke I.
  • 掲載誌:Animals(MDPI)10(6), 991
  • 発表日:2020年6月6日
  • DOI10.3390/ani10060991
  • 原文MDPIで全文を読む(英語)
  • ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
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