健康・腸内環境

鶏に『善玉菌』を与えると、卵はどう変わるか

Enhancing Laying Hen Productivity and Health: Influence of Dietary Probiotic Bacillus Strains and Prebiotic Saccharomyces cerevisiae Yeast Cell Wall on Production Performance, Egg Quality, and Inflammatory Responses

要旨

ヨーグルトや納豆を食べると、お腹の調子が整うと言われます。同じ考え方で、鶏のエサに『善玉菌』や『菌のエサ』を混ぜたらどうなるかを調べたのが本研究です。サウジアラビアとイタリアの共同研究チームが、500羽の採卵鶏を4種類の組み合わせ+対照の5グループに分け、16週間飼育。結果、どの組み合わせでも餌の節約につながり、ある菌の組み合わせでは卵が最も重く、別の菌では産卵率が最も高くなりました。さらに、鶏の体内で起きている軽い炎症も静まることが確認され、長期の健康維持にもプラスに働く可能性が示されました。

背景

いま世界の養鶏では、抗生物質に頼らない飼育への移行が進んでいます。抗生物質は病気予防や成長促進に効果がありますが、人間や動物が使い続けると耐性菌が生まれ、いざという時に薬が効かなくなるリスクがあります。

代わりに注目されているのが、プロバイオティクス(生きた善玉菌)とプレバイオティクス(善玉菌のエサになる成分)です。人間の世界では、ヨーグルトや納豆、オリゴ糖入り飲料などでお馴染みの考え方が、そのまま鶏の飼料設計にも応用されつつあります。

本論文はこの動きの中で、「実際に鶏に与えると、卵や健康にどう効くのか」を、商業飼育に近いスケールで確かめたものです。

用語:プロバイオティクスとプレバイオティクス

  • プロバイオティクス:生きた善玉菌そのもの。今回使われたのは、枯草菌(こそうきん、Bacillus)ラクトス菌(乳酸菌の一種、Bacillus coagulans)。どちらも熱に強く、飼料に混ぜて保存しても生きていられる性質を持ちます
  • プレバイオティクス:善玉菌の「エサ」となり、善玉菌を増やす働きをする成分。今回は酵母細胞壁(パンやビールを作る酵母の外側の部分)が使われました

どちらも、鶏のお腹の中にいる善玉菌を増やすという目的は共通です。

1
飼料に混ぜて与える
枯草菌・ラクトス菌・酵母細胞壁のいずれかを飼料に添加
2
腸内で善玉菌が優位に
善玉菌が増え、腸内フローラのバランスが整う
3a
炎症が静まる
IL-6・TNF-α など、炎症を起こす物質が減少
炎症を抑えるIL-10は増加
3b
飼料効率が上がる
同じ餌でとれる卵が増える
菌の種類で、卵重重視か産卵率重視かを選べる。

ヨーグルトや納豆で知られる「腸活」の考え方が、そのまま鶏の飼料設計に応用されている。善玉菌が増えることで、鶏の体内の軽い炎症が抑えられ、栄養の吸収効率も改善する。

実験設計

サウジアラビアの大学と商業研究施設で、37週齢のハイセックスホワイト採卵鶏500羽を次の5グループに分け、16週間飼育しました。

  • 対照:何も混ぜない通常の飼料
  • 枯草菌1種:Bacillus subtilis という菌の1株
  • 枯草菌2種ミックス:B. subtilis と B. licheniformis を1:1で配合
  • ラクトス菌:Bacillus coagulans(乳酸を作る菌)
  • 酵母細胞壁:菌の代わりに、菌のエサとなる酵母の細胞壁を添加

飼料は一般的なトウモロコシと大豆ベースで、栄養価も各群で揃えています。違いは添加した菌・プレバイオティクスだけです。

結果1:どの組み合わせでも餌の節約になった

最もはっきりした結果は、飼料効率の改善です。

5つの飼料グループでの、卵の重さ・産卵率・飼料効率の比較(対照を基準とした傾向。枯草菌2種ミックスは卵重が最大、ラクトス菌と酵母細胞壁は産卵率が最大)

飼料効率は「同じ卵を作るのに必要な餌の量」。改善すると同じ餌で多く卵がとれるようになります。

出典:Hakami ZM, et al. (2025) Animals 15(10), 1398 の結果傾向をもとに作図。

飼料効率とは「同じ量の卵を作るのに必要な餌の量」。これが改善すると、同じ餌でもっと卵がとれることを意味します。

論文ではすべての添加群で有意な改善が確認されました。効果の内訳を見ると、枯草菌2種ミックスでは卵の重さが最も重く、ラクトス菌と酵母細胞壁では産卵率が最も高い、という種類による得意分野の違いも浮かび上がりました。

大きな卵を目指すのか、多くの卵を目指すのかで、選ぶ菌を変えるという経営判断も可能になるということです。

結果2:鶏の体の炎症が静まった

本研究の第二の発見は、鶏の血液中の炎症マーカーの変化です。

プロバイオティクス・プレバイオティクスを与えた鶏の血液中で起きた、体内の炎症に関わる物質の変化(対照との比較)

炎症を起こす物質が減り、抑える物質が増えるのは、鶏の体が「落ち着いた」状態になったことを示します。これは長期の健康維持につながる望ましい変化です。

出典:Hakami ZM, et al. (2025) Animals 15(10), 1398 の結果傾向をもとに作図。

人間の体でも鶏の体でも、軽い炎症がずっと続いている状態は健康に良くありません。長期的に内臓や免疫機能に負担がかかるからです。

血液中で「炎症を起こす物質」(IL-6、TNF-α、IL-1β)が減り、逆に「炎症を抑える物質」(IL-10)が増えたということは、鶏の体が落ち着いた状態になったことを意味します。年齢を重ねた鶏でも、健康を保ちながら産卵を続けられる可能性が広がります。

結果3:全体の飼料摂取量はむしろ少し減った

意外だったのは、サプリを添加した群のほうが、対照群より1日あたり約2g少なく餌を食べたこと。普通に考えれば「栄養が効率よく使われて腹持ちがいい」のような働きがあったと見ることができます。

少ない餌で同じか、それ以上の卵を産むわけですから、経営的にも環境的にも嬉しい結果です。

実務への示唆

本論文から読み取れるポイントは次の通りです。

  • プロバイオティクスやプレバイオティクスは、抗生物質を使わない鶏卵生産を支える現実的な選択肢として機能する
  • 選ぶ菌や酵母の種類によって、得意な効果が違う(卵の大きさ重視か、産卵率重視か)
  • 鶏の体内の炎症が静まることで、長期の健康維持・産卵サイクルの延長にもつながる可能性がある
  • 飼料の量がやや減るため、飼料コストと環境負荷の両面でもメリットがある

消費者の視点から見ると、「抗生物質不使用」「腸活に優しい飼料で育てた鶏の卵」といったブランド訴求の科学的な裏付けが、こうした研究で積み上がっている段階と言えます。

出典情報

  • 原著タイトル:Enhancing Laying Hen Productivity and Health: Influence of Dietary Probiotic Bacillus Strains and Prebiotic Saccharomyces cerevisiae Yeast Cell Wall on Production Performance, Egg Quality, and Inflammatory Responses
  • 著者:Hakami ZM, Alhotan RA, Al Sulaiman AR, Aljumaah RS, Palombo V, D’Andrea M, Alharthi AS, Abudabos AE.
  • 掲載誌:Animals(MDPI)15(10), 1398
  • 発表日:2025年5月12日
  • DOI10.3390/ani15101398
  • 原文MDPIで全文を読む(英語)
  • ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
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