スーパーで美味しい卵はどう見分ける?──研究で分かった、本当に効く『たった一つの表示』
Albumen Quality of Fresh and Stored Table Eggs: Hen Genotype as a Further Chance for Consumer Choice
要旨
スーパーの卵売り場の前で、ふと迷ったことはありませんか。茶色い卵と白い卵、艶のある殻とマットな殻、平飼い表示のあるパックと普通のパック──同じくらいの値段なら、どれを選ぶのが正解なんだろう、と。じつは答えは拍子抜けするほどシンプルです。パックに印字された採卵日が、味と鮮度をいちばん正直に語っている。イタリア・パドヴァ大学の研究者 Chiara Rizzi が、4種類の鶏が産んだ卵を21日間にわたって追跡したデータが、それを静かに教えてくれます。
卵パックには小さな文字で意外と多くの情報がある
手に取った卵パックを、ぐるりと眺めてみてください。採卵日、賞味期限、要冷蔵かどうか、産地、品種や系統、飼育方法、栄養強化(オメガ3など)の表示。小さな文字で、思いのほか多くのことが書かれています。
直感的には、艶やかで茶色い殻のほうが美味しそうに見えます。「平飼い」と書かれていれば、なんとなくこだわりを感じます。でも、それらの印象は味や鮮度と本当につながっているのか。逆に、地味で見過ごしがちな表示のなかに、じつは決定打が隠れていないか。
売り場で卵パックを手にしたとき、見るべきポイントは大きく 5つ。 どれが「味」「鮮度」と本当に直結しているか、データに基づいて優先順位をつけました。
- 1採卵日と賞味期限──日付の新しさが Haugh unit を最も直接に予測します。同じ価格帯なら新しい日付を選ぶだけで鮮度は確実に上がります(最重要)。
- 2要冷蔵表示と店頭の温度──常温棚に長く置かれた卵は、同じ採卵日でも家に着いた時点ですでに鮮度が落ちています(重要)。
- 3殻のひび・汚れ──微細なひびは細菌侵入の経路になります。見た目以上に衛生面で重要です(重要)。
- 4品種・飼育方法の表示──同じ日数でも保存中の品質低下に差が出ることが報告されています(参考)。
- 5殻の色や艶──茶か白かは品種差で、栄養価や味そのものとは結びつきません。光沢のある卵が新しいとも限りません(嗜好の問題)。
「Haugh unit」って何?──卵の鮮度をはかる物差し
研究の話を始める前に、ひとつだけ用語を覚えてください。Haugh unit(ハウユニット、HU)です。1937年にレイモンド・ハウという研究者が考えたもので、ざっくり言うと「卵を割ったときの卵白の盛り上がりの高さ」を、卵の重さで補正した数値です。値が大きいほど、卵白がぷるんと盛り上がっている=新鮮ということ。
米国農務省(USDA)はこのHU値で卵を3段階に等級付けしています。
- AA:HU 72以上(卵白が高く盛り上がり、卵黄が中央でドーム状)
- A:HU 60〜71(生食可、調理用としても標準的)
- B:HU 60未満(卵白が広く流れ、加熱調理向き)
日本のパックに直接 HU は書かれていませんが、採卵日からの経過日数とおおよそ対応関係にあります。
研究の中身:4種類の鶏 × 4段階の保存日数で実験
Rizzi の研究では、イタリアの在来種2品種と商業ハイブリッド2品種を同じ条件で飼育し、産んだ卵を比べました。
- Ermellinata di Rovigo(ER):イタリア在来の純粋種、淡茶色の卵
- Robusta maculata(RM):イタリア在来の純粋種、濃茶色の卵
- Hy-Line Brown(HB):商業ハイブリッド、濃茶色の卵
- Hy-Line White(HW):商業ハイブリッド、白色の卵
全品種を屋外飼育(4 m²/羽)と統一給餌で育て、31・35・39・43週齢の各時点で産んだ卵を、21℃・湿度64%で1・7・14・21日保存。各段階で Haugh unit、卵白の高さ、卵白 pH、卵殻の重さと厚みを計測しました。
結果1:圧倒的に効くのは「採卵日」
最も明瞭な結果は、当たり前すぎて見過ごされがちな事実でした。保存日数が経つほど、Haugh unit は確実に下がる。
日本の卵パックに表示される「採卵日」から日数を逆算すれば、いま手にしている卵がおおよそどのグレード帯にあるかを推測できます。21℃保存ではおよそ2週間でAAからAへ、4週間でAからBへ境界をまたぐ計算です。冷蔵で保存すればこの時計はさらに緩やかになります。
出典:Rizzi C. (2021) Animals 11(1), 135(Hy-Line Brown、保存温度21℃の値)。28日値は外挿。
たとえば商業茶色卵(HB)の場合、産卵翌日には Haugh unit が 90 前後で AA グレードの上位ですが、14日後にはおよそ 71、21日後には 64 まで下がります。在来淡茶色卵(ER)はもっと大きく落ちて、43週齢の鶏が産んだ卵では 21日で 56.6 と AA を下回ってしまいました。
つまり、同じ品種の卵でも、産卵から2週間以上経つと、AA グレードの帯から外れるのが普通。スーパーで隣り合う2パックを見比べたとき、印字された採卵日が1週間違えば、それは中身として明らかに別の卵だということです。
結果2:殻の色は味とは無関係だった
「茶色い卵のほうが美味しい」「白い卵は栄養が少ない」──こうした言い伝えを、どこかで聞いたことがあるかもしれません。本研究の4品種は、白(HW)から濃茶色(RM・HB)まで殻色が連続的に分布しました。新鮮な状態でも、保存後でも、殻の色と Haugh unit や卵白の高さの間に、直接の関係は見つかりませんでした。
殻の色は親鶏の品種で決まる遺伝形質です。栄養価や食味とは独立した、いわば「見た目だけの個性」と言えます。
ただし副次的な発見がひとつ。濃茶色卵(RM・HB)は卵殻が厚い(364〜383μm、ER は 320〜338μm)傾向があり、保存中の水分喪失をやや抑えやすい点は記録されました。これは色そのものの効果ではなく、品種ごとに殻の物性が違う結果の副産物です。
結果3:保存中、卵白は『水のように』流れていく
新鮮な卵を割ると、卵白が「もこっ」と盛り上がります。古い卵ではそれが「ふわっ」と広がる。この差はどこから来るのでしょうか。
卵殻には目に見えない無数の気孔があり、保存中はそこから二酸化炭素がじわじわ抜けていきます。すると卵白の pH は産みたての 7.6 前後から、保存21日でアルカリ側へ 9 近くまで上昇。アルカリに傾いた環境では、卵白の網目構造を作っているオボムチンというタンパク質が緩み、卵白が水のようにさらさら流れるようになります。
この現象は白色卵(HW)と淡茶色卵(ER)でとくに顕著で、両品種では1日卵から21日卵まで一貫して「pH が上がるほど卵白が低くなる」強い相関が観察されました。RM と HB はこの相関が新鮮なうちにしか出ず、保存中の品質変化が緩やかでした。気孔が抜ける速度や殻の厚みの差が、品種ごとの「鮮度の落ち方」を決めているわけです。
結果4:本当に見るべきは「日付」と「温度」
本研究の数値と、別の論文(Ikusika et al. 2025、本サイト内の冷蔵庫の卵、いつまで持つ?)を組み合わせると、消費者が売り場で確認できる項目の本当の重み付けが見えてきます。
出典:Rizzi C. (2021) Animals 11(1), 135 および Ikusika OO et al. (2025) Applied Sciences 15(19), 10344 の報告に基づく整理。
確認すべき順序として、日付(採卵日 / 賞味期限)→ 保管温度(要冷蔵かつ実際に冷蔵棚に置かれているか)→ 殻の状態(割れ・汚れ)がまず決定的。品種・飼育方法・殻色は副次的な情報と捉えるのが、データの示す優先順位です。
売り場での選び方:5つの目印
データを踏まえて、明日からの買い物で実践できる選び方をまとめます。
- 採卵日を確認する──同じ売り場で2パック並んでいるなら、新しい日付のものを選ぶだけで Haugh unit はおおむね高くなります。これが最強の手がかり
- 要冷蔵棚で買う──常温棚に長く置かれた卵は、同じ採卵日でも家で冷蔵庫に入れた時点ですでに鮮度が落ちている可能性があります
- 殻の艶を判断材料にしない──じつは新鮮な卵ほど表面のクチクラ層が残っていて、ややマットに見えます。光沢のある卵が新しいとは限りません
- 殻のひび・汚れを避ける──微細なひびは細菌侵入の経路になります。見た目の問題以上に衛生面で重要
- 殻の色や「平飼い」表示は嗜好の問題と割り切る──動物福祉や応援したい生産者を選ぶ動機はあって良いですが、それは「美味しさの保証」ではありません
結論
「美味しい卵を見分ける」という素朴な問いに、Rizzi の研究はとてもシンプルに答えます。パッケージに印字された日付ほど、信頼できる指標は売り場にない。殻の色や艶、表示の華やかさに惹かれる気持ちはごく自然なものですが、それらをいったん脇に置いて「採卵日と冷蔵」の二点を優先するだけで、家で割ったときの卵白の盛り上がりは確実に変わります。日々の買い物で実践しやすく、しかも科学的な裏付けのある選び方と言えそうです。
出典情報
- 原著タイトル:Albumen Quality of Fresh and Stored Table Eggs: Hen Genotype as a Further Chance for Consumer Choice
- 著者:Rizzi C.
- 掲載誌:Animals(MDPI)11(1), 135
- 発表日:2021年1月10日
- DOI:10.3390/ani11010135
- 原文:MDPIで全文を読む(英語)
- ライセンス:CC BY 4.0(著者表示のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)