白・茶・青・緑の卵──色の違いはどこから?
The pigments in eggshell with different colour and the pigment regulatory gene expression in corresponding chicken's shell gland
読みはじめに
卵の殻の色は、なぜ違うのでしょうか?スーパーで見かける卵は白か薄茶が大半ですが、世界には青殻・緑殻・濃い茶殻を産む鶏(チリ原産のアローカナや、その派生種であるアメラウカナなど)も存在します。本記事では、中国・浙江大学のチームが、青殻アローカナの4色変異(オリーブ・グリーン・ブルー・ライト)と白・茶のハイラインを比較した研究をもとに、卵殻の色を決める2つの色素と、それを作る・運ぶ3つの遺伝子の役割分担を読み解きます。
背景
「青い卵」「緑の卵」と聞くと珍しく感じますが、世界の在来鶏には古くから色のついた殻を産む系統がありました。とくに南米チリで先住民マプチェ族が古くから飼育してきたアローカナは、青殻を産む唯一の純粋種として20世紀初頭から欧米で注目され、米国のアメラウカナ、英国のクリームレッグバーなど派生品種も各地で生まれてきました。一方、現場では「同じ青殻系統なのに、産まれる卵がオリーブ・緑・青・薄青とバラつく」現象が、長らく悩みのタネでした。
卵殻の色ムラを色素量と遺伝子発現の両面から定量化した研究は、本研究が初めての試みです。
色をめぐる5つの登場人物
卵殻の色は2つの色素のブレンドで決まり、それを作ったり運んだりするのが3つの遺伝子です。本研究の主役を整理しておきます。

色素(2つ):
- プロトポルフィリンIX:赤血球のヘム(鉄を含む色素)が作られる途中で出てくる物質。茶〜赤褐色の色を出す
- ビリベルジン:ヘムが分解されると出てくる緑色色素。青〜緑の色を出す
運び屋・作り手の遺伝子(3つ):
- SLCO1B3(スルコー・ワンビースリー):ビリベルジンを血液から殻腺へ運ぶ「運び屋」。青殻品種ではこの遺伝子型がほぼ100%固定されている
- HMOX1(エイチモックス・ワン):ヘムを分解してビリベルジンを「作り出す」酵素
- ABCG2(エービーシージー・ツー):プロトポルフィリンIXを殻表面へ「運ぶ」役割
色素を一切塗らない。炭酸カルシウムの素地そのまま、白いまま出てくる。
ビリベルジン(青の色素)が主役。SLCO1B3が血液から殻を作る場所へ運ぶ。
ビリベルジン(青の色素)が多め、プロトポルフィリンIX(茶の色素)が少し混ざる。HMOX1がビリベルジンを多めに作る。
プロトポルフィリンIX(茶の色素)が主役。ABCG2が殻の表面へ送り出す。
殻のもとは白い炭酸カルシウム。そこに2つの色素を「どれくらい」「どの比率で」塗るかで、白・青・緑・茶のすべての色が説明できる。「青の絵の具+茶の絵の具=緑」と同じ足し算が、卵の中で起きている。
どう調べたか
研究チームは、中国の烏骨鶏系の青殻鶏から自然に分かれた『オリーブ・グリーン・ブルー・ライト』の4色変異群と、対照群としてハイラインの白殻群・茶殻群の合計6群を用意しました。
- 各群から卵と殻腺組織を採取
- 卵殻の色を数値化(明度・赤味・青〜緑の度合いの3指標)
- 卵殻からプロトポルフィリンIX(茶〜赤褐色の色素)とビリベルジン(青〜緑の色素)を抽出して量を測定
- 殻腺で3つの遺伝子(SLCO1B3 / ABCG2 / HMOX1)がどれくらい働いているかを測定
こうして得た「色」「色素」「遺伝子」の3層データを突き合わせ、相関を解析しました。
卵の色と色素の量はきれいに対応する

卵殻の明度と赤味は、どちらもプロトポルフィリンIXの量にきれいに対応しました。茶色が濃い卵ほどプロトポルフィリンIXが多く、「茶の濃さ=プロトポルフィリンIXの量」という単純な関係です。
一方、青〜緑の度合いはビリベルジンの量によく対応しました。ビリベルジンが多い卵ほど、青や緑が濃くなるという関係です。
茶の濃さはプロトポルフィリンIXの量で決まり、青〜緑の濃さはビリベルジンの量で決まる。緑の卵は、ビリベルジンを主役にしてプロトポルフィリンIXを少しブレンドした「中間色」。
興味深いのは、同じ青殻系統内でもオリーブ>グリーン>ブルー>ライトの順でビリベルジンが多く、色合いの違いがそのまま色素の量に対応する点です。
3つの遺伝子は『役割分担』している
SLCO1B3(ビリベルジンの「運び屋」)は、4つの青殻群すべてが同じ遺伝子型を持ち、白・茶の対照群より顕著に強く働いていました。これは「青殻品種である」ための入口の条件にあたります。
ただしSLCO1B3だけでは、青殻4群のあいだの色ムラ(オリーブ/緑/青/薄青)を説明できません。ここで活躍するのがABCG2(プロトポルフィリンIXの「運び屋」)とHMOX1(ビリベルジンを「作り出す」酵素)です。
青い卵を産む4グループすべてで「青殻型」を持つ。白・茶ではほとんど働かない
緑・オリーブで一番活発、白で一番おとなしい
濃い茶で一番活発、青い卵では低め
青と緑の差はHMOX1(ビリベルジンを作る酵素)の働きで説明でき、茶の濃さはABCG2(プロトポルフィリンIXの運び屋)の働きで説明できる。同じ青い卵を産む系統の中で見られる色ムラも、この2つの遺伝子の働き方の違いで説明がつく。
- ABCG2(プロトポルフィリンIXの「運び屋」)は茶殻群で最もよく働き、プロトポルフィリンIXの量と一致。働きの強さは茶>緑>オリーブの順
- HMOX1(ビリベルジンを「作り出す」酵素)は緑殻群で最もよく働き、ビリベルジンの量と一致。働きの強さはオリーブと緑で高く、白殻で最も低い
つまり「ビリベルジンを作る量はHMOX1で、プロトポルフィリンIXを運ぶ量はABCG2で決まる」という分業構造が、組織の中で見えてきました。
青殻と緑殻の違いは『二色のブレンド比』

青殻と緑殻は別の種類の色に見えますが、本研究のデータは「どちらも基本はビリベルジンで、緑が茶寄りに見えるのはプロトポルフィリンIXがわずかに混ざっているから」ということを示しました。
- ライト(薄青):ビリベルジンのみ少量、プロトポルフィリンIXほぼゼロ
- ブルー:ビリベルジン中量、プロトポルフィリンIXほぼゼロ
- グリーン:ビリベルジン多量、プロトポルフィリンIXわずかに増加
- オリーブ:ビリベルジン最多、プロトポルフィリンIXも増加
「緑殻は青殻×茶殻のハイブリッド」と言われてきた理由が、色素の量で裏付けられました。
まとめ
- 青殻品種は SLCO1B3(ビリベルジンの「運び屋」)という遺伝子のおかげで青い卵を産める。ただし別品種と交配すると青色はすぐ失われるため、純粋種を保つ必要がある
- 同じ青殻系統内での色ムラ(オリーブ/緑/青/薄青)は、HMOX1(ビリベルジンを「作り出す」酵素)と ABCG2(プロトポルフィリンIX の「運び屋」)の働きの強さで説明できる。両者を組み合わせて、育種で色を安定化させる手がかりになる
- プロトポルフィリンIX は加齢で減少するため、お店で同じパックの茶色い卵でも色のばらつきがあるのは、産んだ鶏の年齢差かもしれない。色の濃淡は品質の差ではない
- 卵殻の色は食味や栄養とは直接の関係がない。ただし青殻・緑殻の研究は進んでおり、これから青や緑のブランド卵をお店で見かける機会が増えるかもしれない
「青や緑の卵殻はなぜ生まれるのか」という素朴な疑問に対し、本研究は色素・遺伝子・色の3層をつなぐ仕組みを示してくれました。次に卵売り場で色のついた卵を見たら、品種と遺伝子の物語にちょっと思いを馳せてみてください。
出典情報
- 原著タイトル:The pigments in eggshell with different colour and the pigment regulatory gene expression in corresponding chicken’s shell gland
- 著者:Wang H, et al.
- 掲載誌:Animal 17(5), 100776
- 発表年:2023年5月
- DOI:10.1016/j.animal.2023.100776
- 原文:ScienceDirectで全文を読む(英語)
- ライセンス:CC BY-NC-ND 4.0(著者表示・非営利・改変禁止のもとで要約・翻訳の再利用が認められています)
本文中の4色のアローカナ青殻(オリーブ・グリーン・ブルー・ライト)と白・茶のハイラインの6群比較、ビリベルジン・プロトポルフィリンIXと卵殻色の対応、SLCO1B3 / ABCG2 / HMOX1 の役割分担、青殻と緑殻の「二色のブレンド比」はこの原著に基づきます。
- アローカナの歴史(チリ原産、マプチェ族の伝統、20世紀初頭の欧米注目):Araucana Club of America – History、The Livestock Conservancy – Araucana Chicken
- アメラウカナ(米国、1984年APA公認):Wikipedia – Ameraucana
- クリームレッグバー(英国、1947年初公開):Wikipedia – Legbar
- HMOX1 のヒトでの抗酸化応答・抗炎症機能:Heme Oxygenase-1 Signaling and Redox Homeostasis (PMC)
- プロトポルフィリンIX が加齢で減少し茶殻色が薄くなる:Samiullah et al. 2018, Brown eggshell fading with layer ageing (PubMed)
本記事は主要原著の翻訳・要約を中心に、青殻品種の歴史・派生品種・関連酵素のヒトでの機能・他研究の補足知見を加えるため、上記資料で文脈を補っています。